今年は例年より暖かいようです。
いまのところインフルエンザウィルス感染(以下、インフルエンザ)も爆発的な大流行ではなさそうです。
しかし毎日風邪症状を訴えて患者さんが来院されます。
そのうちの何割かのひとにはインフルエンザウィルスが検出されますが、インフルエンザではない風邪のひとも相当数いらっしゃいます。またなかには37度台前半の発熱しか示さない、風邪としては軽症のインフルエンザのひともいます。これを最近では隠れインフルエンザと呼ぶこともあるようです。
インフルエンザウィルスは100種類ともいわれる風邪症候群のウィルスのなかのひとつです。
ところで、インフルエンザも風邪ですが、TVのCMで言っているような「早めに〇〇〇〇」を飲まないほうがよい風邪であることは世間ではあまり知られていません。その理由はいくつかあります。
もしインフルエンザであった場合、
- 風邪薬にはインフルエンザの発熱には使わないほうがよい鎮痛解熱剤が含まれているものがある
- インフルエンザの抗ウィルス薬は発症から48時間以内に使わないと効果が乏しい
- 風邪薬の影響でインフルエンザの検査に対する反応が出にくくなる可能性がある
- 風邪薬には風邪を早めに治す効果はなく、症状を一時的に緩和するだけである
- ただの風邪のつもりでいるとウィルスを蔓延させてしまう可能性がある(隠れインフルエンザ)
ということをご存じでしょうか。
市販の風邪薬(総合感冒薬)の主な成分を下記に示します。
- ①鎮痛・解熱成分:
- 熱を下げ、頭痛・のどの痛み・筋肉痛・関節痛を改善する成分です。
おもにアスピリン、エテンザミド、イブプロフェン、ロキソプロフェン、イソプロピルアンチピリン、アセトアミノフェンなどが用いられます。商品によっては二種類の鎮痛解熱剤が混合されている感冒薬もあります。
(参考:総合感冒薬成分比較表はこちら »)
副作用には血圧低下、出血傾向、肝障害、腎障害、インフルエンザ脳症、ライ症候群などさまざまなものがあります。 - ②抗ヒスタミン成分:
- 鼻水、くしゃみを緩和する作用のある成分です。おもなものにはマレイン酸クロルフェニラミン、ジフェニルヒドラミンなどがあります。
副作用は眠気や口の渇きです。 - ③鎮咳・去痰成分:
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デキストロメトルファン、ノスカピン、チぺピジンなどが一般的な咳止めの成分ですが、その他にリン酸コデイン、ジヒドロコデインなど麻薬系鎮咳薬があり効き目がより強力です。またメチルエフェドリンは気管支を拡げる作用があり、痰がからんだりゼイゼイするときに効果があります。いずれも咳の反射を緩和するだけで原因の治療ではありません。
副作用は便秘や呼吸抑制です。 - ④その他の成分:
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- カフェイン:疲労感の回復、眠気予防の目的で配合されています。
- 漢方・生薬:鎮痛・解熱作用があるゴオウ、ケイヒ、ショウキョウや鎮咳作用のあるキキョウ、カンゾウが含まれているものもあります。
- 消炎酵素薬(塩化リゾチーム、ブロメライン):痰や鼻汁を分解し出しやすくし、炎症を鎮めます。
- トラネキサム酸:炎症をおさえたり、止血する働きがあります。
一般にウィルス感染症は自己終息型の疾患と言われ、特別な薬剤を用いなくても身体の免疫機構の働きで自然に治癒するものとされています。もちろん例外はあり、増悪・遷延化・合併症を誘発する例も散見されます。
上記の①に書かれている鎮痛解熱剤のなかで、インフルエンザの際にNSAIDs*(エヌセイズ=非ステロイド系鎮痛剤)と呼ばれる種類の解熱鎮痛剤を飲んだ時、(特に小児で)インフルエンザ脳症**を誘引、もしくは重症化させる可能性があるとされています。
インフルエンザ脳症は、発症すると約30%は死亡し、約25%で後遺症を残す可能性があります。
季節性のインフルエンザが原因で年間150~200人ほどのひとが脳症を発症すると言われています。
前述したNSAIDsの大部分は、インフルエンザの小児への投与は(原則)禁忌とされており、成人においても極力処方しないこととされています。
またインフルエンザの発熱にアスピリンを服用したとき、まれにライ症候群***という疾患を誘発することがあるので使用は避けたほうがよいとされています。
鎮痛解熱剤のうち、カロナール(アセトアミノフェン)のみが推奨される鎮痛解熱剤です。
NSAIDs*:
イブプロフェン、ロキソニン、アスピリン製剤、ジクロフェナクナトリウム製剤、メフェナム酸製剤は使用不可。
カロナールは使用可。
インフルエンザ脳症**:
痙攣・意識障害・異常行動を起こす場合があり、後遺症や死亡する場合もある。
ライ症候群***:
急性脳症や、肝臓への脂肪浸潤を起こし、死亡する場合もある。
冬季の風邪は症状が軽くてもインフルエンザの可能性がある。(隠れインフルエンザ)
風邪薬は症状を緩和するがインフルエンザの特効薬ではない。
鎮痛解熱剤はときに重症化や合併症誘発の危険性がある。
風邪薬は検査の反応を邪魔してインフルエンザかどうかわからなくなることがある。
風邪薬を服用し医療機関を受診するのが遅れると抗ウィルス剤の効果が乏しくなる。
受診が遅れると周りのひとにウィルスをうつす危険性が増す。
冬季の風邪のときは安易に市販の風邪薬は飲まず、痛みと熱がつらいときはカロナール(アセトアミノフェン)を服用し、可能なときは医療機関で検査を受け、必要に応じて抗ウィルス薬を処方してもらうことが大切です。
◎日本感染症学会からはこのような提言があります。
※以下抜粋
- 下記の患者については、インフルエンザが確定あるいは疑われたならば、ワクチン接種の有無に関わらず、可及的早期に抗ウイルス治療を開始する。
- 入院までの期間に関わらず、インフルエンザで入院したすべての患者
- 罹病期間に関わらず、重症あるいは症状の進行する外来患者
- 慢性疾患及び免疫抑制患者を含む、インフルエンザの合併症のリスクが高い外来患者
- 2歳未満の小児および65歳以上の高齢者
- 妊婦および産後2週以内の患者
- 下記のインフルエンザの合併症のリスクのない患者については、インフルエンザが確定あるいは疑われたならば、ワクチン接種の有無に関わらず、抗ウイルス治療を検討してよい。
- 発症後2日以内の外来患者
- インフルエンザの合併症のリスクの高い人、とりわけ重症の免疫抑制患者と家庭内で接触のある症状を呈した外来患者
- インフルエンザの合併症のリスクの高い人、とりわけ重症の免疫抑制患者を日常的にケアする医療従事者の患者
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内科、消化器内科、皮膚科
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